1 照会の趣旨

 感染症に関する情報については、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年12月2日成立、令和4年法律第96号。)により、令和6年4月1日から、厚生労働大臣は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)に基づき、匿名感染症関連情報の第三者への提供(感染症法第56条の41)ができることとなりました。
 これは、感染症法に基づき収集する情報には機微情報が多く含まれるため、感染症法の基本理念である人権面に最大限配慮しつつ、今般の新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえ、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症といった、今後国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある感染症を念頭に、感染症の重症度、ワクチン・治療薬の有効性等の分析に資する調査、研究等を促進することにより、国民保健の向上に資することを目的として、匿名化した大量の症例に係る情報について、他の情報と連結解析することも視野に、第三者への提供を可能とするものです。
 感染症法において、匿名感染症関連情報の提供については、厚生労働大臣はその事務の全部又は一部を支払基金、国保連合会その他厚生労働省令で定める者(以下、「支払基金等」という。)に委託することができることとされており(感染症法第56条の48)、また、第三者が当該情報の提供を受ける場合には、利用者は所定の手数料(以下「本件手数料」という。)を納付しなければならないこととされています(感染症法第56条の49)。
 本件手数料については、感染症法第56条の48の規定に基づき厚生労働大臣が支払基金等に匿名感染症関連情報の提供に係る事務の全部又は一部を委託した場合であっても、消費税法第6条第1項等の規定により消費税が非課税とされる行政手数料に該当するものと解して差し支えないか伺います。

2 照会に係る取引等の事実関係

(1) 提供の対象となる匿名感染症関連情報

 厚生労働省は、感染症の発生届に関して厚生労働大臣が報告を受けた内容(感染症法第12条)や積極的疫学調査の結果(感染症法第15条)等、感染症法に基づく事務を行うことにより保有することとなった感染症に関する情報(感染症関連情報)を保有しています。
 厚生労働省が保有する感染症関連情報は、第三者への提供を行うに際しては、感染症法において、匿名感染症関連情報として提供することとされています。この匿名感染症関連情報とは、厚生労働省が保有する感染症関連情報に係る患者等を識別すること及びその作成に用いる感染症関連情報を復元することができないようにするために厚生労働省令で定める基準に従い加工した感染症関連情報をいいます(感染症法第56条の41)。

(2) 匿名感染症関連情報の利用又は提供

 厚生労働大臣は、国民保健の向上に資するため、匿名感染症関連情報を利用し、又は次のイからハに掲げる者であって、匿名感染症関連情報の提供を受けて行うことについて相当の公益性を有すると認められる業務としてそれぞれ次のイからハに定めるものを行うものに提供することができることとされています。また、厚生労働大臣は、匿名感染症関連情報を提供しようとする場合には、あらかじめ、厚生科学審議会の意見を聴かなければならないこととされています(感染症法第56条の41)。

イ 国の他の行政機関及び地方公共団体 適正な保健医療サービスの提供に資する施策の企画及び立案に関する調査

ロ 大学その他の研究機関 疾病の原因並びに疾病の予防、診断及び治療の方法に関する研究その他の公衆衛生の向上及び増進に関する研究

ハ 民間事業者その他の厚生労働省令で定める者 医療分野の研究開発に資する分析その他の厚生労働省令で定める業務(特定の商品又は役務の広告又は宣伝に利用するために行うものを除く。)

(3) 匿名感染症関連情報の提供に係る事務の委託

 匿名感染症関連情報の第三者提供については、感染症法第56条の41の規定により国が行うこととされていますが、提供に係る事務については、その事務の全部又は一部を厚生労働大臣から支払基金等に委託することができることとされています(感染症法第56条の48)。

(4) 手数料の納付

 匿名感染症関連情報の提供を受け、これを利用する者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を国(厚生労働大臣からの委託を受けて、支払基金等が匿名感染症関連情報の提供に係る事務の全部を行う場合にあっては、支払基金等)に納めなければならないこととされています(感染症法第56条の49)。

3 上記2の事実関係に対して照会者の求める見解となることの理由

(1) 公文書の交付等に係る手数料に関する消費税の非課税規定等

 国、地方公共団体、消費税法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国若しくは地方公共団体の委託若しくは指定を受けた者が、法令に基づき行う公文書及び公文書に類するもの(記章、標識その他これらに類するものを含む。)の交付(再交付及び書換交付を含む。)、更新、訂正、閲覧及び謄写に係る役務の提供で、その手数料その他の料金の徴収が法令に基づくものは、消費税が非課税とされています(消費税法第6条第1項、別表第二第5号イ及びロ、消費税法施行令第12条第2項第1号ハ)。
 なお、「料金の徴収が法令に基づくもの」とは、「手数料を徴収することができる」又は「手数料を支払わなければならない」等の規定をいい、「別途手数料に関する事項を定める」又は「手数料の額は○○○円とする」との規定は含まれないと解されています(消費税法基本通達6−5−2)。

(2) 照会者の求める見解となることの理由

 匿名感染症関連情報の提供に係る事務については、上記2(3)のとおり、国又は法令に基づきその事務の全部又は一部の委託を受けた支払基金等が行うことができることとされています。
 また、上記2(4)のとおり、その提供に係る手数料については、その徴収の根拠が法令上に規定されています。
 そのため、本件手数料が非課税となるかどうかは、上記2(3)のとおり、法令に基づき事務の全部又は一部の委託を受けた支払基金等により提供される匿名感染症関連情報が消費税法上の公文書に該当するか否かにより判断されますので、以下検討します。

イ 匿名感染症関連情報の公文書への該当性について
 公文書については、消費税関係法令上、特に定義規定は設けられていませんが、行政文書は、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録を含む。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものが該当すると考えられており、行政文書が消費税法上の公文書に該当すると考えられます。
 今般第三者提供を行う「匿名感染症関連情報」は、厚生労働省が保有する「感染症関連情報」を厚生労働省令で定める基準に従い加工したものであり(感染症法56の41)、国の職員が職務上作成し、当該職員が組織的に用いるものとして、国が保有している文書と認められます。そのため、提供物である「匿名感染症関連情報」も行政文書に該当します。

ロ 支払基金等に事務を委託した場合の公文書への該当性について
 国が匿名感染症関連情報の提供に係る事務を法令に基づき委託しない場合は、当該情報を作成・保有する主体は国であり、当該情報が行政文書に該当することは明らかです。
 また、匿名感染症関連情報の提供に係る事務の全部又は一部を法令に基づき委託する場合において、その委託する事務の内容は様々考えられますが、感染症法第56条の48にあるとおり、国はあくまで「提供に係る事務」を委託しているに過ぎません。
 そのため、匿名感染症関連情報の提供に係る事務の委託を受けた支払基金等が、その委託事務として作成した匿名感染症関連情報の性質は、国自ら作成した場合と異なるものではなく、感染症法上、事務の委託を受けて支払基金等が作成したものであるか否かにかかわらず、匿名感染症関連情報を作成・保有する主体はあくまで国であると認められます。
 すなわち、支払基金等により提供されることとなる匿名感染症関連情報が行政文書に該当することに変わりはないことから、消費税法別表第二第5号イにある「法令に基づき国(…略…)の委託(…略…)を受けた者が、法令に基づき行う次に掲げる事務に係る役務の提供で、その手数料(…略…)の徴収が法令に基づくもの」であって「(3)公文書の交付(再交付及び書換交付を含む。)、更新、訂正、閲覧及び謄写」と整理することができます。

(3) 結論

 以上のことから、感染症法第56条の48の規定に基づき、国が匿名感染症関連情報の提供に係る事務を支払基金等に委託した場合であっても、匿名感染症関連情報の提供に係る手数料は、消費税法第6条第1項及び消費税法別表第二第5号イ(3)に該当し、消費税が非課税とされるものと考えます。